会長挨拶

各地でご活躍さえていられる同窓の皆さん、お元気でしょうか。

はやいもので一番の年配者は50代の半ばになられます。激動のうねりと渦の中で、それぞれに地道な 努力を積み重ねておられると思います。本来希望あふれるはずの21世紀は、大きな矛盾が幾重にも重なりあっ て幕をあけました。あたかも、大海原の中で自分の位置を計るものさえ失って翻弄される小舟のような状況に、 私たちは追いやられています。そんな時代だからこそ、今改めて求められていることは、人と人のつながりの中で、 互いの励ましあえる関係を作り出すことではないでしょうか。そして互いの知恵と力から学びあうことではないでしょうか。 「同窓」と言う関係が、その一部を形成していることは各所で見られることです。それをもう一段進め 、「きずな」を強めようではありませんか。

さて、大学もまた日本の貧困な展望のない文教政策のもとで、大きな曲がり角にきています。その原因の一つは、大学の「独立行政法人化」にかかわる問題にあります。予算を含めた大学の運営のあり方や、 選別淘汰を内包する再編のことなど、いくつもの問題や課題が伝えられています。何より私たちにとって気がかりなのは、大学の自治、学問・研究の自由、基礎研究の軽視にかかわる問題と、 教官をはじめとする大学人の身分保障の問題であろうと思われます。いずれにしても大学を、大事なものがないがしろにされる所にしてはなりません。信州大学理学部が、今日まで築いてきたものの上に立ち、一層教育 ・研究機関として発展していくには、どうあるべきか、当面そのため何を手がかりとして考えるのかが直面した課題と言えます。もちろん、今日までの研究内容・教育の水準が土台になることは言うまでもありませんが、 もうひとつ、長野県における最高学府としてこの地域の文化・学問の水準をささえる一端を担ってきたことや、松本という地方都市にあって若い人の「教育を受ける権利」を保証してきたことなどは、県民の誰もが疑わない 信大理学部の存在理由であり、大きな手がかりと言えるのではないでしょうか。

同窓会はこれまで、卒業のお祝や退官される先生のお祝、学科の学生教育活動への補助、 学部の市民開放講座への参加などの活動をして参りました。その一つ一つは、わずかなものとしても信大理学部 に生活する人々への大きな励ましであったと考えています。
今後、この新しい状況を前にして、二つのことを進めていこうと考えます。一つは同窓の皆さんのきずなをより強めていくための活動です。二つ目は大学が一層知の創造と継承の場としてふさわしく発展するよう及ばずながら支援することです。そのため、まず同窓会名簿の改定をし、お届けすることにしました。また、各科ですすんでいる文理の先輩を含めた「学科の同窓会」活動を支えたいと考えます。理学部を外から支える力の一端を担うことも、大学と相談しつつ行っていきたいと考えています。さらに、そうした活動を保証する財政基盤の充実です。こうした取り組みの具体化をはかってまいります折には、皆さんの物心両面のご協力・御援助が不可欠です。 改めてよろしくお願いするものです。

同窓の皆さん15年前に発行した名簿の挨拶で、科学と思想(精神)の水路を、自由と民主主義の理想の投げかける光を満身で受け止めつつ誤らず舟を繰り進む一人一人は、決して孤立しているのではない」と記しました。今日あらためてこの言葉を皆さんに送り挨拶とします。

森 淳 (1S数学)